“本当に良いもの”につなぐ入口を。ストーリーを伝え活かす木材利活用

上越新幹線 上毛高原駅構内、カラフルでポップなデザインと共に大きく描かれた『イヌワシストア』の看板が、駅構内を明るく照らしている。
この店舗を経営者として運営する茶屋さんは、元々は自然保護活動とは関わりのなかった人物だ。町内には他に2店舗を運営している。
なぜ3店舗目を「イヌワシストア」と名付け、「イヌワシ木材」として赤谷の森の木材利活用の推進活動までしているのかーー。
赤谷プロジェクトとの関わり、店舗運営の考え方や人物像についてお伺いしました。

茶屋 尚輝(ちゃや なおき)さん

三重県伊勢市出身。前職は建築設計。親会社(VILLAGE INC.)の仕事として全国でキャンプ場の開発等に従事。
みなかみ町の無人駅でグランピング施設「DOAI VILLAGE」をスタートさせる際、先輩移住者の方にサポートしてもらいながら多くの人に出会った。そのまま2020年みなかみ町に移住。 
翌2021年、温泉宿泊施設をテレワークスペースと人が集まれる空間として「さなざわ㞢テラス」へリニューアル。
2024年の4月には、上毛高原駅構内の空き店舗をリニューアルし「イヌワシストア」をオープン。
「イヌワシストア」オープンと同時に、これら3拠点を運営する子会社「株式会社plower」として独立し、代表取締役となられた。

みなかみ町を縦断するように、3拠点を運営されている

インタビュアー:阿部真由(あべ まゆ)
沼田市出身、みなかみ町新治地区在住。子育てしながらも地域での様々な仕事や活動に関わる。
以前勤めていた湯宿金田屋旅館の社長(岡田洋一さん)に勧められて、赤谷プロジェクトに興味をもつようになった。

はじまりは、朝市の出店用テーブル

(阿部)茶屋さんが、最初に赤谷プロジェクトに関わることになったきっかけはなんですか?

赤谷の森の木材、というのが関わったきっかけですね。
『DOAI VILLAGE』で土合朝市を企画した時に、出店用のテーブルを赤谷プロジェクトに関わっている建築士さんに作って頂きました。そのテーブルに、赤谷のイヌワシのために伐採した木材が使われていました。

DOAI VILLAGE|土合駅直結のアウトドアホテル。JR東日本との協働で2020年に開業
旧駅務室には、喫茶店「喫茶モグラ」も営業。DOAI VILLAGEの宿泊者受付フロントも兼ねる
土合朝市出店者用テーブルには、イヌワシ試験地からのスギ材を用いられた
日本自然保護協会 活動レポート より

さらに翌2021年、『さなざわ㞢(の)テラス』をリニューアルする際にも、「赤谷の木材を使いませんか?」というお話をいただいたんです。

さなざわ㞢テラス コワーキングカフェのカウンターは、赤谷の木材でつくられている
棚田での米つくり体験など、フィールドやカフェスペースを活かして様々なイベント企画も

拠点毎に、赤谷の木材活用の提案があったんですね。
さらに2024年に上毛高原駅構内にオープンした『イヌワシストア』は、店名に「イヌワシ」という名前が入っていますね。これは今までの赤谷プロジェクトとの関わりから名付けたのですか?

イヌワシストア|上越新幹線 上毛高原駅構内のコーヒースタンド&ショップ

今の時代、これまで以上に、事業にどういった意味やメッセージを持たせるかっていうのが、誰かにそのサービスを買ってもらうのに大事なことだと思っているんです。

上毛高原駅自体は無機質な建物なので、その中に表情があって、みなかみを感じられるもののひとつとして、地域の木材を使いたいと思っていました。それと、お店のグッズを作る時に、何かシンボリックな、みんなが覚えやすいアイコンになるものが欲しいなと考えていました。前段の木材との関係性も含めて、ちゃんと土地に由来があるイヌワシ以外に考えられないと、自分の中で全てが繋がったので、店名は「イヌワシストア」にしようと決めました。

外から見ても、木のぬくもりが感じられる。テーブルや椅子はほとんどが赤谷の木材だ

代替できない”本当に良いもの”を大事にした拠点づくり

最近では、設備だけでなくデザインですら、お金があれば、いわゆるかっこいい、美しいと言われるものを誰でもつくれるようになってきていますよね。それはそれで、誰でも空間を持ちサービスを生むことに新規参入しやすくてとても良いことだとは思います。

ただ、「本当に良いものって何だったっけ?」みたいなことが、すごく危うくなってきているとも個人的には感じています。だからそれを大事にしたい。要は、それをどうやって今の時代にあった形で、今の人が来たくなるように愉しくするかっていう話だと思うんです。

土合駅は、登山ブームも終わって無人駅になっちゃったけれど、駅舎としてはすごくシンボリックな階段があって、今でも人を惹きつけるストーリーがある。今後作ろうと思っても作れない歴史とともに、そこにちゃんとメッセージがあるんですよね。

土合駅は下り線ホームが地下約70メートルにあり、「日本一のモグラ駅」として長年愛されてきた

さなざわ㞢テラスも、農業体験ができるというコンセプト、町としてみなかみ18湯の一つを守りたいっていう長い年月をかけたストーリーは、お金を払っても後からつけられないんですよ。

さなざわ㞢テラスは、みなかみ18湯“真沢温泉”唯一の宿泊施設。元々温泉宿だった建物を引き継いだ

イヌワシストアも、ただのコーヒー屋をつくるみたいな、誰でもやれることをやる必要はない。だったら僕らがやらなくていいなって思っていました。
赤谷プロジェクトと、イヌワシのストーリーも含めた木材の利活用が大事なことだと感じていたのと、自分と同時期に移住してきた担当の子が、地域の、地球の自然の為に日々頑張っていることをとても素敵だと感じていたので、自分なりに応援できれば、という思いもありましたね。

今回のインタビューも、イヌワシストアの赤谷の木材のテーブルを囲んで行われた

イヌワシ木材の価値を感じ、促す側へ

最近では、イヌワシ木材の特設サイトも制作されて、イヌワシストアを通して赤谷の木材の購入や活用を促すこともされているんですね。

イヌワシ木材

イヌワシの保全を目的に伐られた赤谷の森の木材を「イヌワシ木材」と名付けて、ブランディングするお手伝いもしています。
一般の木材は、材料として使うために育てて伐るのが本来の目的だと思うんですが、「イヌワシ木材」は明らかに異なる。イヌワシの狩り場が創られれば良いので、その先はどうでもいいかもしれない。
でも、その目的で伐られた木が他の木たち以下に扱われる必要はないなぁと思ったんですね。同じように木材として扱いたい。寧ろ、他と理由が違うってだけで充分に価値があるので、それってめちゃめちゃ魅力的な商材やん!と思いました。

赤谷プロジェクトの背景を、ちゃんとこの一つの椅子が語ってくれている。そこに価値を置いているってことです。そのコンセプト付けは、やはりお金を払ってもできないので。

便利だったり、安かったり、みんなが持っている同じもの、という安心感からたくさん買っていた価値観から、「なんかそうじゃないかもしれない」って思いだしている人たちが増えてきている。消費活動がちゃんと地球に対して好ましい形になっていくためには、選ぶ理由にちゃんと価値をのせてあげるのが大事かなと、ちょっと大袈裟ですが、そんな風に思っています。

笛木建設 And Energy Bouldering 受付カウンター
2025年、沼田市にオープンした「And Energy Bouldering」の受付カウンターもイヌワシ木材だ
イヌワシ木材 特設サイト より

「耕す人」として —— 即決の理由

「イヌワシストア」オープンと同時に子会社「株式会社plower」を設立し独立されたそうですが、会社名の由来について、改めて教えてもらえますか?

plower(プラウアー)は、英語でプラウが「耕す」っていう意味なんです。プラウアーで「耕す人」。
あるものを耕して、みんなが入りやすいように敷居を低くするみたいな。妻がアイデアを出してくれて、即決でした。

各拠点異なる方向性で、新たな関わりの開拓や、文化保全・資産活用を行っている

茶屋さんは、行動力やスピードがあって、直感、感覚派ですね。自信があるから感覚で進めるのでしょうか。

やるって決めたものを、ちゃんとイメージしているものに近づけていく自信はありますね。何かを決める時にリスクがゼロなんてことは100%なくて、やめる理由出しはめちゃめちゃいくらでもできてしまう。
なので、やると決めたらどれぐらい問題があるかをまず考えます。例えば、始めるのに1億円掛かるならすこし難しいけれど、もしもお金は掛からないなら、とりあえずちょっと試して、結局ダメだったらやめればいいって考える。

悩んで解決するならどれだけでも悩むけど、そうではない。だとしたら、悩んでいる時間はマジで勿体なくて。だからそれが即決に繋がるんですね。

面白そうって思う方を選んだら、失敗しても「自分で選んだから仕方ないな」って思えるので、とりあえず後悔はしない。面白そうだけどリスクがあるからやめておこうって言って選ばないよりは、選んで失敗した方がいい。でも、そうやって選べる環境を整えてもらえてた事は、本当に有り難いと思っています。

人間の歴史や、赤谷プロジェクトの20年のように長い時間軸の中で、僕らが判断して何かをやってみる数ヶ月や数年って、ほんのちょっとの話ですよね。けど、そのちょっとした取組がその後に強烈なインパクトを与える可能性もあるんだとしたら、そっちを選択したい。
ずっと何もしなければおそらく安全なんですけど、それって退化なので、時代にあった変化が常に必要だと思っています。その変化のためには、自分が選んだことをどうにかしてやりますっていう責任を取る。そこをちゃんと努力してやるっていう自信はあります。

紹介いただいている三拠点は、そんなマインドで茶屋さんが先頭切って耕したところに、自然と人が集まってきている ーー そんな印象がありますね。

”丘サーファー”だからできる橋渡し

赤谷プロジェクトに関わって特に良かったことや、逆に難しく感じていることはありますか?

難しく感じていることはないですね。マジで何もない。
良いことは、「イヌワシストア」がある事で、赤谷プロジェクトに関する情報やそこに関わる人たち、その思いに自動的にふれられること。よく集まりに使ってもらえているので、その場に居ることで、結果一緒に学んでいってる感じで、ありがたいです。新しい情報がどんどん入ってきて、新鮮ですね。

僕は、赤谷プロジェクトが20年続いていることは価値あるすごいことだと思ってはいるんだけど、取り組みの全てのことを詳しく知っている訳ではないし、難しい話になるとあんまり分かっていない部分もありますね。あれです、”丘サーファー”みたいなやつですね。丘でサーファーファッションしているだけ、みたいな(笑)

丘サーファー?(イメージ)

でも実は、自分がそれくらいの理解度なのも大事な気がしているんです。中にいる当事者って、せっかくだから全部伝えたい、正しく知ってもらった方がより良いだろうと思っている。けれどそれってボリュームが大きくなるので、最初は「なんか面白い」とか「なんか美味しい」とか、とりあえず何かがすこし引っ掛かるぐらいできっと良い。入り口はどこでもよくて、あんまり難しくない方が良い。それをどうやってその本音の想いに寄り添い、保ちつつ、うまく切り取ってたくさんの人に渡すかという方が、僕の役割としては大事なのかなと思うんです。

「なんか良いな」でコーヒーを飲みに立ち寄る、お土産をのぞきに来るだけでもいい

僕自身が、いろんなことを掘り下げてちゃんと知識をつけるとか苦手で、正しい知識を元に面白く話すということはできないんですが。その分、何か良いと思ったものを、うまくサービスに変えて伝えて、お金に変えて地域に回していく…ということをやる、その選択肢を増やしていく立ち位置なのかもしれないなぁと思います。

知りたいと思ってる人をすこし刺激できれば、その人はもっと深く知ろうとする。そこから更に深堀りするかどうかは、その人たちが選べばいいと考えていますね。

こういうお店があることで、赤谷プロジェクトの敷居が低くなって良いなぁと私は感じています。深く知るとか知らないとか、それが良いとか悪いとかじゃなくて、どんな人でも赤谷プロジェクトとつながるチャンスがある、橋渡し的な位置付けなんだろうなって思います。

つなぎですね。つなぎ。小麦粉系。(笑)

あは!言葉のチョイスがいい。
『小麦粉系/丘サーファー』…赤谷プロジェクトや、代替できない”本当に良いもの”へとつながる、愉しいきっかけやタッチをたくさんの人に届けること。それが茶屋さんの強みであり役割ということなんですね。

茶屋さんのユーモアで笑いも多く、和やかなインタビューでした

【編集後記】
インタビューが初めてで緊張もしていましたが、初対面にも関わらずとてもお話ししやすく、有り難かったです。
赤谷プロジェクトの主な活動は研究としての色も強く、敷居が高く思われがちです。茶屋さんのような橋渡し的な役割の方がいてくれるのは心強く、町が歩んできた歴史や、赤谷プロジェクトに対する熱い想いも感じました。素敵な方にインタビュー出来て良かったと感じました。
とても貴重な経験ができたと思っています。ありがとうございました。

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