人と人との繋がりを広げること。それが自然を守ることに繋がっていく

◾️インタビュー実施: 2025年

ほんの少しのキッカケでいい。
赤谷プロジェクトを知って家族や友人に広まって欲しい。
小さい積み重ねが輪を一段大きくする。
他人ごとにせず、自分ごととして赤谷プロジェクトを知って欲しい。

片野 直子(かたの なおこ)さん

みなかみ町(旧新治村)出身。高校で山岳部に入部し登山とクライミングを始める。大学進学後はクライミングサークルに所属し、海外クライミングツアーで様々な国を訪れる。都会で働く中で体調を崩した事もあり2018年にUターン。自分の好きな環境で働く事が、持続的に仕事を続けるために必要不可欠だと気づき、みなかみ町主催の谷川岳インタープリター養成講座(自然解説ガイド)に参加したことをキッカケにガイドの道へ。現在はみなかみ山岳ガイド協会に所属し、ローカルの山を中心に活動している。

赤谷プロジェクトの存在を知ったのは高校生の頃。本格的に関わり始めたのはUターンした後だった。実家に戻ったが体調不良が続き寝込んでいた冬のある日、エナガが庭にやってきた。そのあまりの可愛さに心を打ち抜かれ、身近な鳥に興味を持つようになった。

「イヌワシのような鳥が生きているだけで感動する」

鳥を好きになったことをキッカケにより赤谷プロジェクトに関わりたい想いは強くなった片野さん。赤谷プロジェクトに参加したくてもどこに連絡したらいいか分からずとても困ったそう。今回のホームページがそんな人達の入り口になるねと嬉しそうに話してくれた。そんな片野さんの今の一番の推し鳥はスズメなんだとか。

片野さんの赤谷プロジェクトでの主な仕事は二つ。
一つは学校団体のガイド·引率など、学生達が自然の中、自分達で考え学ぶための場作りもしている。

最近では首都圏の中学生がみなかみ町にある赤沢スキー場跡地で

【鹿の調査をするにはどうすればいいか?】をテーマに話し合った。

鹿が増えた事を証明するためにはどういう方法がいいのか、何に着目したらいいのか、グループに分かれ話し合い実際に試して貰う。大人でも難しいテーマだ。こども達も四苦八苦しながら、各々の気づきや発見があったそうで、中には鹿以外のことを発見するグループも。

仲間と協力し試行錯誤行することで成長するこども達。そんな姿を見てこども達の力を強く感じたという。

二つ目は企業のアテンドだ。赤谷プロジェクトを支援したいと関わる企業とともに、自然林を再生するボランティア作業も行うという。草刈りのほか、自然観察会をしたり一緒にキノコやドングリを探したりしながら、自然の楽しいところを紹介している。

その中で片野さんが一番大切にしていることが、企業側と地元住民との繋がりだ。
赤谷の自然に対してはもちろんだが、

「ここに来たらあの人に会える、また来たい」

そんな心に残る特別な場所だと感じてもらえる後押しができたら良いなと、片野さんは嬉しそうに話してくれた。

赤谷プロジェクトの活動を通して、自身も鳥や植物など自然に対する知識がすごく増えたそう。プロジェクトの一環で植物の専門家の方と一緒に伐採後どんな植物が生えてきたかを調べる植生調査や、猛禽類の調査をお手伝いしたという片野さん。

「才能と経験のある専門家の方と一緒に何かするって本当に貴重」

赤谷プロジェクトに関わる人は多く、広い分野での活動、継続した調査が行える体制など、恵まれた環境も魅力の一つだと教えてくれた。
その経験と知識はガイドの仕事に役立つのはもちろん、私生活も以前より楽しくなった。

一方、ガイドが本業の片野さんだから感じる難しさがある。

ガイドの目線から赤谷プロジェクトを見ると、同じ自然に対する見方がかなり違うという。ガイドはお客さんに自然を楽しんでもらう観光要素が強いが、赤谷プロジェクトは自然保護を前提にした学術的要素が強い。見え方が違えばやりたいことも変わってくる。学べることも多くおもしろいと感じる事もあるが、接すれば接する程目線の違いを感じている。

また赤谷エリアでガイド事業を展開する難しさも感じている。近隣の谷川岳や尾瀬など観光地化されたエリアと比べると、赤谷の森ではどうしても自然の楽しさを得づらい。そのうえ、赤谷に生息するイヌワシなどの猛禽類は人との距離が近いと繁殖をやめてしまうという性質がある。

マニアックに見ていけば面白い事はたくさんあるが、それを伝える技量もないし、わかりやすくはないし難しい

そうつぶやいた片野さんは赤谷プロジェクトだからできるガイド事業を考え模索している。

活動して見えた事もあった。
Uターン当初、片野さんが所属するガイド協会と赤谷プロジェクトは接点がほとんど無い状態だった。
同じ町内にあり同じフィールドで活動する両者が、良い関係を築くことはお互いにとって良い影響を与える、と強く感じた片野さんは、自らが互いを繋ぐ架け橋になれればと周りに声をかけた。その結びつきは広がり、賛同し協力してくれる仲間が増え、架け橋は繋がりつつある。

赤谷の森のクマタカ 撮影:Adegawa Eiji

架け橋となった片野さんの今の夢は、クマタカと人との架け橋になること

片野さんの住んでいる須川地区にもクマタカ等の猛禽類が暮らしている。

「裏山にクマタカが住んでるだけで感動する」

常に鳥たちに感動している片野さん。人と人だけではない、繋がりの架け橋へ。

自分に出来ることは微力かもしれない。それでもクマタカが生きていく環境が続くことを願っている片野さん。そのためにも新治小で始まった自然教育を月夜野·水上地区に広げて行きたいと教えてくれた。 こども達の力は本当に凄いからね、と。

【編集後記】

取材して一番感じたのは「繋がり」だ。自然と人の繋がり。人と人の繋がり。
自然と地域の繋がり。教育と自然の繋がり。別々の物が繋がって赤谷の森を守る事に繋がっていく。

「色んな人と出会えて良かった。」

片野さん自身も赤谷プロジェクトに参加し繋がりを感じたからこそ言える言葉ではないのか。
最初は知ることから。知ってそれを周りの人に伝える。そうやって繋がりを広げて行けば誰かが興味を持つかも知れない。興味を持って赤谷の森を訪れるかもしれない。活動に参加するかもしれない。広がった繋がりの先に、イヌワシやクマタカが安心して暮らせる未来があるのかもしれない。

ライター:有谷 恵美(ありたに めぐみ)

みなかみ町(旧新治村)出身、在住。
2017年にみなかみ町にUターン。
実家の農業を手伝いながら3人の子育てをする温泉大好きママ。