遊びながら学ぶ、「赤谷環境教育ガイド」というチャレンジ

◾️インタビュー実施: 2025年

続けることで次世代へ継いでいきたい。

「自然のなかで遊ぶことが好き。」
「地域の自然環境を守り、次世代の子どもたちへより良い環境を継いでいきたい。」

でも「どんな事から始められるだろう。」
そんな想いを持つみなさんへ。

想いが行動になり、形になり、持続していくためのヒントを石飛誠さんから伺いました。

石飛 誠(いしとび まこと)さん

千葉県出身。仕事は主として造園業。2014年、家族4人で千葉県我孫子市から移住された。赤谷プロジェクト10周年記念のイベントや、お子さんと赤谷の森自然散策に参加されたこと等がきっかけで、赤谷の森でのガイドを手伝うようになった。
5年以上、仕事の傍ら、地域内外の子ども達等、赤谷プロジェクト関係の企画においてガイドを務められている。
週末は、自伐型林業グループ木木木林〔キキキリン〕で、仲間と地域の森林整備に汗を流す。

石飛さんは造園業の仕事に従事されながら、赤谷環境教育ガイドとして赤谷プロジェクトに関わるお一人です。主なガイドはみなかみ町の子どもたち向け。

赤谷の森自然散策新治小学校56年生向けの赤谷の森体験学習、企業研修のガイドを行っています。

【赤谷の森自然散策】
みなかみ町と林野庁赤谷森林ふれあい推進センター(2025年度からは加えて谷川岳エコツーリズム推進協議会)主催。赤谷の森の自然に親しみ、環境について学べる機会として年4回季節ごとに一般の方向けに開催。
赤谷の森自然散策:関東森林管理局

【新治小学校5、6年生向けの赤谷の森体験学習】
新治小学校の総合学習の一環。赤谷プロジェクトに関する学習を通して、地域の自然に愛着と誇りをもつことに繋げる。子どもたち自身にテーマを決めてもらい、それにもとづき解説などを行う。
新治小学校(6,5,1 年生)における赤谷の森体験学習の手引書(案)

ガイドを始めた頃は「知識も経験もなく自信がなかった。」と言う石飛さん。5年の経験を経て、今どのような想いを持ちながら赤谷プロジェクトに関わられているのでしょうか。

原点は自然のなかでの遊び

「自分が楽しかったことを今の子どもたちにも伝えたい。」

この言葉をインタビューの冒頭でお聞きしました。

自然のなかで遊び、遊びから学ぶ。
幼少期からの経験を知りその原点に触れることができました。

「もともと小さい頃から生き物が好きで、家の近くの里山や水辺でいろんな生き物を獲って遊んでいました。はじめは父に魚釣りに連れられて、小学校3年生くらいになると学校帰りには友人たちと。物心つく前から自然のなかで遊ぶことに親しんでいました。」

大学卒業後も、合間を見つけては自然に関わる機会を持ち続けます。

湘南自然学校でキャンプリーダーとして、子どもたちにキャンプ体験をしてもらう活動に携わっていたことがあります。子どもと同じ目線で一緒になって自然体験を行えたことがよかったと言います。

大学時代に興味をもっていたビオトープ管理士の資格取得や自然環境への学びをさらに深めるため、会社員を辞め、静岡県にあった常葉環境情報専門学校(平成20年に廃止)へ2年間通います。

その後は千葉県で造園業に従事。アウトドアが好きでみなかみ町へ年に何度か訪れていたこともあり、思い切って家族4人で移住します。

ベテランガイドさんとの出会い

実は移住する前から「赤谷プロジェクト」という名称を目にしており、興味をもっていたのだとか。

みなかみ町で行われていることを知ったのは移住後のこと。「赤谷の森だより」に触れ、お子さんを通して、小学校の授業や行事に関わっている赤谷プロジェクトについて更に知っていきました。

【赤谷の森だより】―赤谷プロジェクトによる活動の普及宣伝のための情報誌。主にみなかみ町内地区ごとの回覧、公共施設に設置している。
赤谷の森だより:関東森林管理局

地域で活動する方や専門家の先生に話しを聞きに、赤谷プロジェクト10周年記念のシンポジウムにも参加します。

そして赤谷プロジェクトに関わる大きなきっかけとなったのが、長浜陽介さんとの出会い。お子さんと一緒に参加した赤谷の森自然散策のガイドさんでした。

石飛さんは自然観察指導員への登録を行っており、長浜さんよりサブガイドとして同行するお誘いを受けます。

【自然観察指導】地域に根ざした自然観察会を開くことで、多くの人に自然の大切さを伝えるボランティアリーダー。地域の自然を守るために行動したい気持ちがあれば誰でも、日本自然保護協会が全国で開催する自然観察指導員講習会を受講することにより登録できる。

何度か同行しているうちに、メインガイドで班を持つことを任されるようになりました。

「長浜さんは赤谷の森をずっと歩いてこられた大先輩。超えることはできないけれど、出来る限り近づきたい。」

長浜さんの想いが石飛さんへ引き継がれ、さらに次世代の子どもたちへとつながっていきます。

ガイドを通して子どもたちから学ぶこと

子どもたちから多くの学びを得ていると話す石飛さん。
「最初は覚えていることを言うだけのガイドになったり、子どもから質問されてあたふたしたりでした。子どもたちは色んなことを聞いてくれるので、刺激を受けながら経験を重ねられたかなと思います。」

大切にしていることは「内容を砕いて話すこと。子どもたちに伝えたいというのがメインです。」

赤谷の森自然散策のある回では、一方的に話すのではなく、子どもたちからの質問をベースにガイドをやってみることにしました。
質問に対して石飛さんが知っていることは「これ何だろうね?」「こうかもね?」と、分からないことは「帰ったらみんなで調べてみようか。」と答えるように。

子どもたちと同じ目線に立ち、常に導いてあげながらのガイドを心がけるようにしています。

5年の経験を経ても「いやぁ、5年の経験ではまだまだまだまだまだ!」という言葉に、子どもたちに伝える難しさを感じます。

と同時に、子どもたちに対する真摯な姿勢を感じずにはいられませんでした。

「子どもにからかわれながら、場数を踏み、知識では補えない部分が大事なんじゃないかなと気付かされました。
子どもたちには知識を伝えるより体験させてあげたい。
楽しいと感じてもらえる場を作れるガイドでありたい。」

いつの間にか私も、石飛さんのガイドに参加したいと思うようになっていました。

地域のなかでガイドを続けていく意味

ガイドを続ける意味をさらに伺います。

「ガイドを通して、地域とつながり自然環境をより良くすることに関われている実感があります。それが自信になり、心が満たされています。」

石飛さんにとってガイドは、子どもたちとただ自然のなかで遊ぶだけにとどまりません。
その先に見えているものは何なのでしょうか。

穏やかな口調のなかに使命感のような強い想いを感じ取りました。

「自然環境を守る活動は長い期間で考えなければいけない。自分たちの命が尽きてもやっていかなければならないことだと思うから。その想いを次世代に継いでいかなければ。だから子どもたちに伝えていくって大事なことかなと思っています。」

「子どもたちのなかで一人でも、地元の自然環境を守ることに関わる人がいてくれるといいなと思っています。」そんな期待も伺うことが出来ました。

漠然とあった想いがガイドを通して形になり、そして続けていくことの意味へとつながっています。

自然環境保全、野生生物、人の暮らしが共存していくことの難しさ

ここまでのお話しとは反対に、課題に感じていることもお聞きしました。

自然環境に興味のない人や地域のことをネガティブに捉えている人に、地域の自然環境や赤谷の森の素晴らしさをどう伝えればいいのだろう。

最近では赤谷プロジェクトという名前を聞いたことがある、という地域の方も増えてきてはいますが、何をやっているか分からないという方が大半なのだそう。
また生計をたてている農家さんにとっては、作物を奪っていく野生動物は敵と思う人も多いのだとか。

「自然環境を守りながら、野生生物が快適に暮らせる環境を守っていきたい。それと同時に人間も安心して暮らせなければならないから。」

共存していくことの難しさを感じ、石飛さんと一緒にしばらく会話が止まってしまう場面もありました。

「心の片隅にでも、地域の自然環境の大切さを置いてもらえると。」

地域に暮らす一人一人が自分事として周囲の自然環境に興味を持ち考え行動すること。その難しさを感じるとともに私たちにできることの大きさも感じます。

継続していくために

最後に、これからの赤谷プロジェクトに期待することをお聞きしました。

「赤谷プロジェクトに関わる様々な活動を絶やさず続けてほしいと思います。世代が変わってもずっと。そうでなければ今やっていることに意味がなくなってしまうから。」

大切なことは「時代に合わせて形を変えながらも、赤谷プロジェクト発足当時の方の想いを継いでいくこと。」

その言葉に、先輩ガイド長浜さんの想いを次世代の子どもたちへと継ぐ石飛さんの姿が重なりました。

「自分が楽しかったことを今の子どもたちにも伝えたい。」

石飛さんが子どもたちに蒔いている種は、穏やかにしかし着実に芽吹きながら、さらに次の世代へと継がれてゆくことでしょう。

そして私たちに始められることはすぐそばにあるかもしれない。そんな気づきもいただいたインタビューとなりました。

ライター:乾 元穂(いぬい もとほ)